Q.なんとか裁判にしないでほしいのですが、出来ますでしょうか?
A.可能です。但し、交渉が引き延ばされること、明渡日の約束を破られることを見据えて、調停手続や即決和解手続を踏むことを検討すべきです。
1.裁判にしなくても解決できる場合も多い
訴訟は解決のための一手段です。したがって、任意交渉、すなわち話し合いのみによって解決に向けて交渉していくことも可能です。
具体的には、内容証明郵便の送付と電話での話し合いなどにより解決を試みる形になります。
内容証明を送付するのみで家賃を全額回収できた事例もありますし、任意交渉のみで早期退去に至った事例も多数あります。
2.任意交渉のみで解決を行う場合のメリット・デメリット(明渡請求)
任意交渉のみで解決を図ろうとする場合、訴訟提起の場合に比べてメリット・デメリットがあります。
(1)任意交渉のみで解決を図る場合のメリット
裁判の場に持ち込まないことで、感情的な対立を避けながら解決に向けて協議することができます。但し、多くの場合、紛争になっている時点で感情的になっていることも多いというのが正直なところです。
(2)任意交渉のみで解決を図ろうとする場合のデメリット
ア 引き延ばしに利用され、解決時期が遅くなる可能性
建物明渡請求においては、明渡の任意交渉と訴訟を同時並行で行うことが一般的です。
これは、明渡の任意交渉の段階で、借主から明渡時期を引き延ばされる可能性があるためです。
任意交渉のみで解決を図る場合、このような明渡の引き延ばしリスクがあります。
イ 合意を反故にされる可能性
仮に任意交渉において合意に達し、明渡の合意書を締結したとします。
明渡合意書だけでは、強制的に賃借人を退去させることはできません。
賃借人を裁判所の強制執行手続を用いて強制的に退去させるためには、債務名義(判決や和解調書等)が必要です。
したがって、賃借人が合意書に定められた退去期限を遵守しない場合に強制的に退去させるには、賃借人に対する訴訟を提起する必要があります。
(但し、合意書の存在により、早期に訴訟が解決することがあります。)
(3)任意交渉にて合意に至った場合に検討すべきこと
ア 即決和解手続の利用
任意交渉には上記⑵で記載したメリット・デメリットがあります。
任意交渉により合意に達した場合(特に、明渡期限の遵守が求められる場合)には、即決和解の申し立てを行うことも検討すべきです。
即決和解手続にて明渡期限を合意する文書(和解調書)が作成されますと、訴訟上の和解と同様の効力が生じます。この点、明渡日の約束を反故にされた場合には、直ちに強制執行手続に移ることができます。
イ 調停手続の利用
調停手続は、裁判所で調停委員を交えて協議を行う手続きです。
調停手続は、1か月に1回程度調停期日が開かれ、そこで調停委員を交えて協議を行いますので、「引き延ばし」という事態を比較的避けることができます(但し、あくまで「話し合い」ですので、調停の場で引き延ばしが図られることもあります)。
調停で合意された内容(調停調書)はいわゆる債務名義となります。
したがって、賃借人が調停の内容を反故にした場合には、直ちに強制執行手続に移ることができます。
(4) まとめ
このように、任意交渉で明渡の問題を解決することも十分可能です。
但し、明渡日の合意を反故にされる場合に備えて、調停や即決和解の手続等を踏むことも検討した方が良いです。
どのような手続を選択するかは非常に重要です。
赤坂門法律事務所では、ご相談の際に、ご依頼者のお話をじっくり伺ったうえで方針決定することにしています。
【2022年10月21日更新】