【建物明け渡し(立ち退き)解決事例】善管注意義務違反による明渡請求
【物件】木造アパートの一室(ワンルーム)
【借主】40代独身男性
【案件の特徴】善管注意義務違反による明渡請求
【解決内容】任意退去、及び、原状回復費用の回収
1.はじめに
今回紹介する解決事例は、漏水等の発生を放置し賃貸人に報告せず、部屋内部を広範囲にわたり損壊させたことを理由とする明渡事例です。
2.事案の概要
まず、本件は賃借人に家賃の滞納はありませんでした。また、近隣への迷惑行為等もありませんでした。
しかし、部屋内部で漏水が発生したものの、賃借人がそのことを賃貸人に伝えず、そのうちに部屋の天井、床、扉などが損壊するに至りました。賃借人は漏水の事実や損壊の事実を伝えず放置していたということです。偶然にも契約更新にあたって部屋を訪問した管理会社の従業員が部屋内部の様子を確認し発覚した次第です。
その後賃借人に対して明け渡しを求め、破損費用についても請求したいということで、弊事務所へ相談がありました。
3.事案の経過
(1) まず、賃借人に対し、漏水を破損し建物内の設備等を破損に至らしめたことを理由として、賃貸借契約を解除する旨を記載した内容証明郵便を送付しました。しかしながら、賃借人からは連絡はなく、また、電話をかけても繋がらなかったことから、裁判所に物件の明渡を求めて訴訟提起しました。
(2) 訴訟提起後も賃借人からは音沙汰がなく、訴訟も当方の主張を全面的に認める判決が下されました。その後、物件の玄関ポストに裁判所からの書留郵便の不在票が挟まっているのを見たお父様より連絡が入り、その後、本人とも連絡がとれるようになりました。
(3) 賃借人本人と話をし、強制執行は行わずに任意で退去してもらうこととし、原状回復費用(100万円)についても毎月の分割払にて支払う旨合意に至りました。現在も毎月数万円ずつ支払って頂いています。
4.本件のポイント
(1) 賃借人の善管注意義務
賃借人は、物件の使用についてこれを善良なる管理者をもって管理する義務を負います。この善管注意義務を踏まえ、一般的な賃貸借契約書は、賃借人が部屋の中の破損を知った場合には速やかに賃貸人に通知する義務が定められています。
本件の賃借人は民法上の善管注意義務、及び、賃貸借契約に基づく破損個所の通知義務に違反し、その結果部屋の中の設備を破損させるに至ったということです。賃借人のこの行為は、賃貸借契約に定める賃借人の義務の履行を怠ったということになりますから、契約の解除事由になる、ということです。
(2) 本件における善管注意義務違反
本件では部屋の中で漏水が発生していますが、この漏水は建物自体の瑕疵によるものであり、漏水自体に賃借人の責任はありませんでした。
しかし、漏水発覚後すぐに管理会社や賃貸人に連絡して修繕を求めれば部屋内部の設備も破損することはありませんでしたが、本件の賃借人は漏水をかなりの長期間にわたってこれを放置し、その結果部屋の天井や床、扉などが破損するに至りました。
加えて、今回の場合には、賃借人が長期間にわたり漏水を放置した結果、ワンルームのアパートであるにも関わらず、破損部分の修繕費用(原状回復費用)が100万円を超える金額となるなど、部屋全体が大きく破損するに至りました。
(3) 善管注意義務違反が契約解除事由となること
賃借人が善管注意義務違反となる行為を行い、その結果賃貸人と賃借人間の信頼関係が完全に破壊されると評価される程度に至った場合には、賃貸借契約の解除事由となります。
本件における賃借人の義務違反の程度は大きいというべきであり、また、その結果として生じた賃貸人の損害もまた大きいと言わざるを得ません。比較的特殊な事例ではありますが、このようなケースでは賃貸人と賃借人間の信頼関係が破壊されたとして、本件においては、賃貸借契約の解除が認められる事由であるといえます。
(4) 原状回復費用の回収
比較的特殊な事例ではありますが、原状回復費用が多額にわたる場合、一括で回収することができない場合があります。
本件では半年程度の分割払いにて対応しましたが、多額の費用を回収しようとする場合には、分割払いにて少しでも多く回収する形で対応すべき場合もあります。
5.最後に
弊事務所では、本件のような賃借人の善管注意義務違反に基づく賃貸借契約解除・建物明渡請求についても多くの経験を有しています。
お困りの際にはぜひご相談ください。
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