【明渡請求訴訟事件の実務】5 弁護士に依頼するのに適した案件
(1)はじめに
家賃滞納にお困りの場合であっても、すべての案件が弁護士依頼に適するわけではありません。別途弁護士費用がかかるためです。では、どのような案件を弁護士に対して依頼するのが良いのでしょうか。
具体的には、法的手続の必要性が高い以下の案件です。
- 行方不明の場合
- 刑事施設に身柄拘束されているような場合
- 滞納期間が長く、滞納額が半年分以上となっている場合
- 賃料が高額の案件
以下、それぞれについて詳細に解説いたします。
(2)行方不明の場合
借主が行方不明の場合には、任意での明渡が期待できません。この場合、行方不明であっても、借主に無断で部屋の中の荷物を撤去してはいけません。無断で部屋の鍵を変えたり、緊急性のない限り、開錠して部屋の中に入ってはいけません。これは、賃貸借契約書において行方不明の場合に部屋の中の荷物を撤去することができるといった記載がある場合や、鍵を開錠して部屋の中に入ることができる旨の記載がある場合も同様です。郵便物の内容を確認することも許されないことがあります。
明渡を実現するためには法的手続を取らざるを得ず、弁護士への依頼に適する案件であるといえます。
(3)刑事施設に身柄拘束されている場合
賃借人が刑事施設に身柄拘束されている場合にも、行方不明の場合と同じく、本人による明渡が期待できません。この場合にも、行方不明の場合と同様、明渡を実現するためには訴訟等の法的手続を取らざるを得ません。
行方不明の場合と異なるのは、弁護士が弁護士会を通じた照会等を行うことにより、どこの刑事施設に収容されているか判明することがあるということです。また、弁護人が判明すれば、弁護人を通じて明渡手続を進めることができることはあります。
これらの手続や照会は、弁護士を通じて行った方がスムーズですので、刑事施設に身柄拘束されている場合も、弁護士への依頼に適する案件です。
(4)滞納期間が長く、滞納金額も半年分以上となっている場合
滞納期間が長く、滞納金額も半年分以上となっている場合、ほとんどのケースで滞納の解消は期待できません。しかしながら借主としては、半年分であれば何とかなるであろうと考え、退去手続を躊躇する傾向にあり、状況が膠着している場合が多く見受けられます。
この場合、法的手続に進むことで事態の抜本的な解決ができることがあります。逆にいえば、法的手続に進まないと、膠着状態を解決できないともいえます。
(5)賃料が高額の案件
賃料が高額の案件、例えばファミリー向け物件や店舗事務所の契約等は、法的手続による解決に適した案件です。なぜならば、賃料滞納による損害が拡大しやすく、明渡による解決や早期の家賃回収による解決が必要となるためです。なお、賃料が高額であるということは、裏を返せば当初はそれだけの支払能力があったということでもあります。したがって、賃料の滞納解消や早期の明渡が期待できる案件でもあり、法的手続による早期の解決が見込める案件でもあります。
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目次
- (表紙)家賃滞納に基づく明渡訴訟について弁護士が解説します
- 【明渡請求訴訟事件の実務】1 建物明渡請求訴訟の全体像
- 【明渡請求訴訟事件の実務】2 明渡請求訴訟の特徴 (1) 迅速性
- 【明渡請求訴訟事件の実務】2 明渡請求訴訟の特徴 (2)当事者の特定
- 【明渡請求訴訟事件の実務】2 明渡請求訴訟の特徴 (3)物件の特定
- 【明渡請求訴訟事件の実務】2 明渡請求訴訟の特徴 (4)送達の問題
- 【明渡請求訴訟事件の実務】2 明渡請求訴訟の特徴 (5)強制執行における問題点
- 【明渡請求訴訟事件の実務】3 相手方への配慮
- 【明渡請求訴訟事件の実務】4 弁護士相談のタイミングと弁護士相談の前に行うべきこと
- 【明渡請求訴訟事件の実務】5 弁護士に依頼するのに適した案件(本ページ)
- 【明渡請求訴訟事件の実務】6 弁護士相談の際の留意点(必要資料と解決方法)
- 【明渡請求訴訟事件の実務】7 明渡請求の当事者の検討
- 【明渡請求訴訟事件の実務】8 請求権者(賃貸人・所有者)の特定(1)
- 【明渡請求訴訟事件の実務】9 請求権者(賃貸人・所有者)の特定(2)
- 【明渡請求訴訟事件の実務】10 明渡対象物件の特定
- 【明渡請求訴訟事件の実務】11 相手方との交渉
- 【明渡請求訴訟事件の実務】12 訴訟提起の判断基準
- 【明渡請求訴訟事件の実務】13 占有移転禁止の仮処分の要否
- 【明渡請求訴訟事件の実務】14 訴訟提起にあたっての考慮事項(手段選択)
- 【明渡請求訴訟事件の実務】15 訴訟手続~①訴えの提起「管轄・手数料」~