【明渡請求訴訟事件の実務】4 弁護士相談のタイミングと弁護士相談の前に行うべきこと

1.はじめに

 借主が家賃を滞納しているので物件からの立ち退きを求めたいけれども、具体的にどうすれば良いのか分からないという家主様や管理会社様も多いと思われます。
 大家や管理会社様が悩まれるのは、「どのタイミングやどのようなケースで弁護士に相談したらよいのか」という点だと思います。3か月滞納で解除、といっても、弁護士に依頼すると費用がかかる関係で、できればご自身で解決したいと思われるのは自然なことです。
 保証会社による家賃保証がついている物件については、代位弁済請求を行えば、その後の回収は保証会社が行うことになりますが、家賃保証がついていない物件については、大家様や管理会社様がご自身で対応することになります。
 本稿では、主として保証会社が付いていないケースを念頭に置き、弁護士相談の前に行うべきこと、弁護士相談のタイミングを解説します。

2.弁護士相談の前に行うべきこと

(1) 1~2か月滞納したというタイミングで弁護士に相談すべきか

 1~2か月滞納したという時点で相談するのは、顧問弁護士がいる場合を除いて時期尚早だと思います。
 弁護士に相談する前にまずやるべきことがあるというのが正直なところです。

(2) 大家様や管理会社様での初動対応

 ・賃借人に家賃滞納が発生した際の初動対応は、以下に整理されると思います。
 ・賃借人に連絡をとり、支払を求める。それでも支払が無かった場合には、家賃滞納が発生した理由、賃借人の状況を確認する。
 ・滞納金額について協議し、支払計画を立てる。場合によっては支払計画を書面に残す。
 ・生活に困ってる方には、行政機関等に相談することを勧める(場合によっては生活保護受給の検討を勧める)。
 ・連帯保証人に連絡し、状況を説明して滞納分の支払を求める。
 ・賃借人や連帯保証人と連絡がとれる状態で、かつ、1~2か月程度の滞納であれば、このような対応で解決できる場合がほとんどかと思われます。

(3) 内容証明郵便を送付する際の注意点

 なお、但し、賃借人や連帯保証人に対して、内容証明郵便により支払を求めるときは、弁護士に文面をチェックしてもらった方が良いと思います。
 なぜなら、家主様にとって法律的に不利となるような文面を避ける必要があるためです。
 内容証明の言葉のせいで、訴訟において不利な立場に置かれることは決して珍しいことではありません。

3.弁護士相談を行うケースやタイミング

(1) 借主が所在不明で、連帯保証人や緊急連絡先とも連絡が取れない場合

 借主が所在不明になっており、連帯保証人や緊急連絡先と連絡がとれない場合には、損害を防ぐために速やかに弁護士に相談された方が良いと思います。
 そのまま放置すると、どんどん損害が拡大するため、速やかに明け渡しの判決を取得するべきです。

(2) 初動対応にも関わらず滞納金額が3か月分を超えた場合

 滞納金額が3か月分を超えてくる場合には、もはや滞納を解消することは困難となっていると思われます。また、3か月分を超えてくると、借主との連絡もとれなくなってきます。
 3か月分を滞納する場合には、裁判実務上、賃貸借契約の無催告解除も認められうることから、この時点で弁護士に相談された方が良いと思われます。

(3) 支払計画を履行しなくなった場合

 初動対応で定められた支払計画を履行しなくなったときも、弁護士相談のタイミングだと言えます。
 当初履行できると考えた支払計画が履行できないのですから、借主は経済的に苦境に立たされているともいえます。このタイミングで弁護士に相談し、適切な対応を行うのが借主にとっても、大家様や管理会社様にとっても重要です。

※2021/02/15に追記・修正しました。

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投稿日時: (約4年3ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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