【建物賃貸借契約条項解説】15 原状変更の原則禁止

【条項例】

第〇条(原状変更の禁止)
1 賃借人は、賃貸人の書面による承諾を得ることなく、本物件の増築、改築、移転、改造、模様替え若しくは造作設備の新設、除去又は変更を行ってはならない。
2 賃借人が前項に規定する行為をしようとする場合には、事前にその内容を賃貸人に対して書面により説明しなければならない。
3 賃借人が行う第1項の工事は、賃貸人が指定又は承諾する工事業者において施工するものとする。
4 第1項の工事の施工にあたっては、賃借人の責任と負担において行うものとし、賃貸人に一切迷惑をかけない。また、本物件に賃借人が付加した財産に課される公租公課は賃借人の負担とする。

【解説】

1 はじめに

 本条項は賃借人が物件の原状変更を行う場合の手続・責任・費用等について定めた規定です。賃借人による物件内の原状変更を自由に許すと、物件価値の毀損に繋がりかねないことから、賃貸借契約において定めておく必要があります。

2 条項の内容

(1) まず、原状変更の内容を明確にしたうえで、それらの行為を原則として禁止する必要があります(第1項)。但し、内容によっては物件価値の増加や賃借人の定着に繋がることもあることから、賃貸人に対して事前説明のうえ、書面による承諾があれば、原状変更をすることも可能との建付けにすることが一般的です(第2項)。

(2) 原状変更工事における施工業者は、賃貸人が指定する業者に行わせることが望ましいといえます(第3項)。物件の内容を熟知した業者に工事を行わせた方が、工事において不慮の事故を防ぐために効果的だからです。

(3) また、工事施工は、賃借人の責任と負担で行わせる旨、原状変更による付加された物件について租税公課が生じる場合にはそれを賃借人の負担とする旨規定した方が良い場合が多いと思います(第4項)。

3 条項違反の効果

 本条項に違反し、無断で原状変更を行った場合には、賃料等の滞納がなくても、無断工事という事実により信頼関係が破壊されたと評価され、契約解除が認められる場合が多いと思われます。
 物件の明渡訴訟においては、無断工事の存在を立証することになりますが、「無断で工事をした」ことについては賃貸人が積極的に主張立証すべき事由になりますので、その意味でも、「工事においては書面が必要」という条項を入れておくべきと考えます。契約書に記載があるにも関わらず書面が無いということであれば、無断で工事されたことを推認しうるからです。

次のページ: 16.善管注意義務及び損害賠償

目次:建物賃貸借契約条項解説

  1. 賃貸借の目的物
  2. 契約期間・更新条項
  3. 使用目的
  4. 更新料
  5. 賃料等の支払時期・支払方法
  6. 賃料改定・賃料増減請求
  7. 敷金一般
  8. 敷金返還債務の承継
  9. 館内規則・利用規約等
  10. 遅延損害金
  11. 賃貸人の修繕義務
  12. 契約の解除・信頼関係破壊の法理
  13. 保証金
  14. 賃借人たる地位の移転
  15. 原状変更の原則禁止(本ページ)
  16. 善管注意義務及び損害賠償
  17. 連帯保証人
  18. 反社会的勢力の排除
  19. 当事者双方からの期間内解約条項
投稿日時: (約5年3ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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