【建物賃貸借契約条項解説】12 契約の解除・信頼関係破壊の法理

1 はじめに

賃貸人としては、賃借人が家賃を滞納したり、目的物の用途に従った使用をしてくれなかったりした場合には、その賃借人との契約を解除したいと思うはずです。
賃貸借契約書には、必ず賃貸借契約の解除事由を定めた規定が置かれています。
一般に、催告の上契約を解除できる事由を定め(催告解除)、催告を要することなく契約を解除できる事由を定めることがほとんどです(無催告解除特約)。
ただし、解除事由に当たるからといって当然に解除が認められることにはならないため注意が必要です。実際に解除が認められるためには以下でみるように、「信頼関係が破壊されたこと」が必要になります。

2 契約解除の方法

賃借人に家賃滞納等の債務不履行があった場合、賃貸人としては契約の解除を検討することになります。契約を解除する方法としては、催告解除(改正民法541条)と無催告解除(同542条)があります。もっとも、無催告解除は例外的な場合に認められるものであり、催告解除が原則的な方法となります。

3 催告解除

⑴ 催告解除の要件

民法の条文上、催告解除をするためには、①賃借人に債務不履行があること、②相当の期間を定めて催告すること、③催告期間内に債務不履行が是正されないこと、④解除の意思表示をすること、⑤債務不履行が社会通念に照らし軽微とはいえないこと、が必要です。
一般には、「滞納額〇〇万円を〇年〇月〇日にまでに支払え。支払いがなければ契約を解除する。」との内容を記載した内容証明郵便を賃借人に対して送付し(①②④)、期限内に支払いがないとき(③)は、賃料未払は軽微とはいえないことから(⑤)、条文上は解除できることになります。
もっとも、賃貸借契約は、売買契約の用に1回限りの契約ではなく、人的な信頼関係に基づく継続的な契約であるため、債務不履行があったとしても直ちに解除できるわけではなく、判例上の要件として、⑥信頼関係が破壊されたことも要求されます。

⑵ 信頼関係破壊の法理

上記要件のうち特に問題になるのが⑥信頼関係が破壊されたといえるかどうかです。
例えば、契約書で「賃料等の支払を怠り、その額が2か月分以上に達したとき」と規定していたとしても、2か月分の賃料未払いが生じれば必ず解除が認められるというわけではありません。例えば、賃貸人が修繕しないので賃借人が賃料の支払いを拒否しているなどの事情がある場合には、賃料不払いにはそれ相応の理由があり、直ちに「信頼関係が破壊された」とまではいえない場合もあるでしょう。
では、具体的にどういう場合に信頼関係が破壊されたといえるのでしょうか。
実は、明確な判断基準があるわけではなく、諸般の事情を総合的に考慮して決することになります。
それでは基準がないのと同じじゃないかと思われるかもしれませんが、単純な賃料未払の事案では、賃料3か月分程度の未払いがあれば信頼関係が破壊されたと認められる可能性が高いです。また、2か月分の滞納であっても、賃料の支払状況(長期間にわたって約定支払日に遅れて賃料を支払っていたこと)やその他の債務不履行状況(更新料の支払も怠っている等)を総合的に考慮して、2か月分程度の賃料不払いでも解除が認められる可能性はあります。

4 無催告解除

無催告解除事由は、通常の催告解除よりも、より背信性が要求されます。
賃料不払いであれば、3か月以上の滞納等です(上述したように3か月以上の滞納があれば必ず無催告解除が認められるというわけではありません。ここでも信頼関係の破壊があったといえることが必要です)。
具体的にどのような場合に無催告解除が認められるかについても、明確な基準があるわけではなく、事情を総合考慮して決せられることになります。
実務上は、無催告解除特約が定められていたとしても、債務不履行の状況が是正される余地のある場合(未払賃料全額が支払われる可能性のある場合等)については、念のため催告したうえで解除したほうが、解除が認められる可能性はより高いといえるでしょう。

5 いかなる条項を設けるか

いかなる事由を催告解除事由するか、無催告解除事由とするか、ですが、例えば、催告によって是正される余地のある債務不履行については催告解除事由、反対に、催告しても是正の余地がないような事由(賃借人が破産手続き開始の申し立てをした場合等)については無催告解除事由とするような区分けをすることが考えられます。

次のページ: 13.保証金

目次:建物賃貸借契約条項解説

  1. 賃貸借の目的物
  2. 契約期間・更新条項
  3. 使用目的
  4. 更新料
  5. 賃料等の支払時期・支払方法
  6. 賃料改定・賃料増減請求
  7. 敷金一般
  8. 敷金返還債務の承継
  9. 館内規則・利用規約等
  10. 遅延損害金
  11. 賃貸人の修繕義務
  12. 契約の解除・信頼関係破壊の法理(本ページ)
  13. 保証金
  14. 賃借人たる地位の移転
  15. 原状変更の原則禁止
  16. 善管注意義務及び損害賠償
  17. 連帯保証人
  18. 反社会的勢力の排除
  19. 当事者双方からの期間内解約条項
投稿日時: (約5年3ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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