【明渡請求訴訟事件の実務】10 明渡対象物件の特定

(1) 明渡の対象となる物件を特定する必要性

 建物明渡請求訴訟においては、明渡の対象となる物件が何か特定することが必要です。
 明渡の対象が特定できない場合には、強制執行手続において執行の対象が不特定となる結果、強制執行手続により明渡が実現できないという結果となる可能性があります。
 また、明渡の対象となる物件を訴状において特定していない場合、訴状が却下される可能性もあります。
 賃貸借契約の対象が明渡の対象となりますので、明渡の対象は一般的には賃貸借契約書の記載により決定されることになります。
 以下では、建物明渡請求訴訟において、物件の類型ごとに具体的にどのように物件を特定していくのか検討していきます。

(2) 区分所有マンション

 区分所有マンションにおいては、不動産登記簿に記載されている専有部分が原則として明渡請求の対象となります。但し、賃貸借契約の内容において共用部分がその対象となっている場合もありますので(管理組合や他の区分所有者との関係でどのように整理されているかは別問題です)、そのような場合には明渡請求の対象を慎重に検討することが必要ですし、そもそも賃借人が排他的に占有使用できるかどうかという問題もありますので、そもそも「明渡請求の対象になるかどうか」の検討が必要です。

(3) アパートや一棟建賃貸マンション

 アパートや一棟建賃貸マンションにおいては、部屋番号等で物件を特定することが多いと思われます。部屋番号で部屋が区切られていますので、部屋番号さえ特定できれば、明渡の対象もおのずと明らかになるためです。
 但し、賃貸借契約の内容によっては、部屋以外の専用の物置や駐輪場等、部屋以外の部分も賃貸借の対象とされている場合もあり、その場合には注意が必要です(部屋の明渡は完了したが、物置の明渡はできなかったということになりかねません)。

(4) 戸建物件

 いわゆる戸建物件の場合には、建物とその敷地たる土地が対象となることが一般的です。建物の敷地も含めて明渡の対象とするというのが一般的な考え方です

※この点、敷地のうち建物が建っている以外の部分のみが対象となるという考え方があり、そのような訴訟指揮を行う裁判官に出会ったこともありますが、その考え方だと特定に困難を生じる場合が生じますし、厳密に決定できるものでもありませんので、このような特定の仕方は疑問であると考えています。

 問題は、「明け渡しの対象となる敷地はどこからどこまでか」という点です。
 いわゆる建売分譲住宅団地のように、それぞれの境界が明確な場合には良いですが、一つの土地に数棟の一戸建の建物が建てられている場合だと、どこからどこまでが敷地としてよいか不明の場合があります。
 このような場合には、ある程度利用範囲を画して物件を特定するか、若しくはそもそも建物のみを明渡の対象とするといったときもあります。これはケースバイケースというほかなく、訴訟提起時に使用実態を詳しく調査したうえで決定することになります。
  

(5) オフィスビルの事務所・テナント

 オフィスビルの事務所やテナントの場合には、部屋番号自体が明らかではなく「A区画」とか「B区画」といった形で賃貸借契約において特定されてる場合が多く、また、区画をまたいで賃貸されている場合もあります。
 そこで、オフィスビルの事務所やテナントについては、原則として賃貸借の対象を図面で示して特定することが一般的です。そうでもしないと一見どこが賃貸借の対象なのかわからないためです。
 ここで注意したいのは、「賃貸借契約書に添付された図面が正しいとは限らない」という点です。例えば、賃貸借契約書に添付された書面が簡素な内容である場合です。このよう場合には、実際の賃貸対象範囲と一致していない場合がありますので、このような場合には、別図面等で実際に賃貸の対象となる範囲を特定する必要があります。

(6) 駐車場

 建物ではないですが、建物に付随して駐車場の賃貸借契約が締結されることがあります。
 駐車場番号が付され、かつ、区画が白線等で区切られている場合には特定は容易です。しかし、例えば、「この駐車場内のどこにでも駐車しても良い」という場合にはそもそも明渡の対象となる土地の特定ができません。
この場合には、明渡請求ではなく車両の撤去請求等を検討する必要があり、注意が必要です。

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記事カテゴリ: コラム
投稿日時: (約2年5ヶ月前)

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よくあるご質問

見積もりを取ることは可能でしょうか?

ご相談いただければ可能です。

ご相談内容を踏まえてお見積りさせていただきます。
見積もりは無料となっております。事案によって請求額は異なりますので、まずはご相談ください。

退去してもらうまで、どの程度の時間がかかるものでしょうか?

当事務所での解決までの平均期間は、4か月程度です。但し、弁護士が受任したことで、1カ月程度の早期解決に至ることもあります。

家賃滞納による明渡請求は、家賃滞納自体に争いが無い場合には、強制執行手続による退去完了まで、以下の経過をたどります。

  1. 内容証明郵便による契約解除通知送付(受任から3日~1週間程度)
  2. 訴訟提起(内容証明郵便送付日の翌日~2週間程度)
  3. 第1回期日(訴訟提起日から1ケ月~1ケ月半程度)
  4. 判決期日(第1回期日から1週間~2週間程度)
  5. 強制執行申立(判決期日から2週間~1ケ月程度)
  6. 断行手続(強制執行申立から1ケ月~1ケ月半程度)
  7. 退去完了

強制執行手続のうち、断行手続(裁判所の手続により、荷物を搬出・鍵の交換等を行う等の方法で強制的に明け渡しを実現する手続)によって退去が完了する場合、受任から終了まで概ね4ケ月~5ケ月程度の期間が必要となります。

但し、賃借人が行方不明の場合などを除き、強制執行の断行手続に至るケースは多くありません。訴訟提起後、強制執行手続に至るまでに退去するケースの方が圧倒的に多いというのが実情です。
弁護士が家主様の代理人に就任したことにより、1カ月程度で退去に至るケースもあります。
これらの早期解決案件を含めた弊事務所での平均解決期間は、受任から概ね4ケ月程度です。

【2022年10月11日更新】

司法書士に頼むのとどう違うのですか?

建物明渡請求訴訟について、司法書士は原則として代理人になれません。

弁護士と司法書士の違いは、端的にはその権限に違いがあります。

弁護士は、すべての訴訟事件について代理人として活動することができます。
他方で、司法書士は、訴訟事件について原則として代理人となる権限がありません。
認定を受ければ訴額140万円以下の事件について代理人として活動することはできます。しかし、その場合でも、簡易裁判所の事件での代理権しかなく、地方裁判所での代理権限はありません。
不動産明渡請求訴訟は地方裁判所が管轄です。司法書士は地方裁判所における代理権がありませんし、強制執行手続きについては、司法書士は代理人にはなれません。
不動産明渡請求については、司法書士が大家様や管理会社様に代わって借主と交渉することもできません。

借り主がどこに行ったか不明で連絡も取れないのですが、それでもお願い出来ますか?

可能です。法的手続きを進めるうえで大きな問題はありません。

借り主が所在不明で連絡も取れないということは、もはや話し合いでは解決できません。法的手続きを執るしか無い場合がほとんどだと思われます。
そのような場合に適した法的手続きを進めることで、ほとんどの場合、強制的に退去させることが出来ます。
但し、連絡も取れない場合には、家賃の回収については困難な場合がほとんどです。

手続き中、借主が直接自分の所に来て話したいと言ってきた場合にはどうしたらよい?

毅然と拒否し、弁護士と話すよう伝えて下さい。

弁護士が受任した場合は、全て弁護士を通していただく必要があります。大家さんご本人が直接話すとどうしても甘いことを言ってしまったりして、それを逆手に取られ、状況がこじれることがあるからです。
我々が借主様からお話を伺った場合には、通常依頼人たる大家様にご報告申し上げ、それで対応を協議するという形になります。
ご依頼頂いている以上、「弁護士を通してほしい」と言って頂いて構いませんので、まず直接の話し合いは避け、弁護士と話すように伝えてください。

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