【建物明け渡し(立ち退き)解決事例】物件に不具合があったとして家賃の支払を拒否されたものの、最終的には滞納による明渡請求が認められ、任意退去に至った事例
【物件】福岡県内のアパート
【借主】30代男性
【受任時の滞納月数】3か月分
【特徴】家賃(全額)不払の理由として物件内部の不具合を主張された
【解決内容】任意退去
【解決までの期間】受任から1年程度
1.事案の概要
物件は福岡県内のアパートです。
賃借人からは、入居当初から、照明に不具合がある、サッシが壊れている、などと様々なクレームがありました。賃貸人としては、(クレームが若干不当と思われるものも含め)誠実に対応していました。しかし、賃借人は、入居後1年経過したのち、突然、「物件には様々な不具合がある。対応してもらったものも含めて、家賃を支払う価値はない物件なので、家賃を支払わない」と主張するようになり、家賃を全く支払わなくなりました。
3か月分の滞納が生じたタイミングで、弊事務所に依頼があり、家賃滞納による建物明渡請求訴訟を提起しました。
2.経過
訴訟提起後、借主からは、これまでの主張と同様に「物件に不具合があり、到底通常の使用に耐えられないものなので支払わない」との主張がされました。
当方からは、
①使用に耐えられないと言いながらも、借主自身入居を継続しており主張と行動が矛盾している
②物件の不具合等、借主の要望については全て対応済み
③その他不具合と主張している部分は、物件の不具合と評価できるものではない
等を主張しました。
また、書証として、不具合対応をした際の記録や写真管理会社の対応記録等を提出しました。
その後、裁判所での3回の期日を経て借主に対して明け渡しを命じる判決が下されました。
強制執行を予告したところ、借主は、その後まもなく任意退去していきました。
3.弁護士コメント
⑴ 賃借物件の一部が、滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益ができなくなった部分の割合に応じて(当然に)減額されます(民法611条1項)。なお、一部が使用及び収益ができなくなったことにより契約の目的を達成することができなくなった場合には、賃借人は契約を解除することができます。民法611条2項)。
この条項によれば、賃借物件の使用及び収益ができなくなった範囲において、賃料が当然に減額されます。したがって、当然に減額された賃料の範囲で賃料支払を拒んでも、債務不履行の問題は生じません。
しかし、減額されない部分については依然として賃料支払義務があります。
よって、賃借物件の一部に不具合があることを理由に、賃料全額の支払を拒むことは、それ自体債務不履行を構成し、契約解除事由となります。
⑵ 本件は、借主が家賃滞納の理由として、物件内部の不具合の存在を主張した事案です。このような事案は珍しくはありません。現実には、家賃が支払えないことを正当化するために主張されることが多いというのが正直な感想です。多くの場合には、任意退去にて解決することが多いです。
ただ、中には、物件の不具合がひどく、確かに居住に耐えられないな、という感想を持つ物件もあります。このような場合には、(若干の引っ越し費用を支出し)早期に退去して頂く形が理想的と思われます。
このような類型の案件は、紛争が長期化し、滞納金額も多額となる場合が多く、早期の対応が肝となる場合があります。
物件不具合を理由とする家賃滞納は、それ自体理由がない場合も多いですし、また、実際に家賃減額をもらたすような不具合があった場合においても、弁護士に相談することで解決可能な問題です。